運営側の安全対策
ロードバイクに乗ることによって得られるスピードは、初心者の方でも時速30kmを越えます。
自分自身が注意していても、屋外かつ多人数でのスポーツである以上、
外的要因(気象条件・競い合う相手)によって事故リスクは高まります。
私たちツール・ド・ニッポンは、
2017年までに150件以上のレース・サイクリングイベントを運営してきた実績と経験値に基づいて
各イベントでの最適解を導き出し、適切な安全対策を構築しています。
自転車の楽しさを参加者の皆さまに存分に味わってもらうために、
自転車イベント運営における事故リスクを最小限に留めることが私たちの使命と考え、
専任の「ライドディレクター」が以下の流れでイベント当日までの実務を行っています。
ライドプロジェクトの構成
ツール・ド・ニッポンの主催団体である一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパンでは、社内にサイクリングやエンデューロ、ヒルクライムなどの「一般参加型自転車イベント」の運営(主に競技運営)を担当する専任のチーム(ライドプロジェクト)を構成しています。現在所属メンバーは4名。彼らはライドディレクターとして、イベント全体の進行を司るチーフディレクターや、受付・エントリーを担当するカスタマーディレクター、進行周りのステージディレクター達とは別の独立したチームとして存在し、すべての自転車イベントの運営を「安全・安心」に遂行することを使命としています。
所属メンバー
- 飯田 速人 愛車:SCOTT
- 栗原 佑介 愛車:Wilier
- 増田 英行 愛車:KUOTA
- 貫場 友介 愛車:TREK
定期的なMT
参加者の皆さんが可能な限り安全に、安心してイベントを楽しんでいただくために、【1.現地視察】~【2.概要の決定】~【3.事前準備】~【4.当日運営体制の構築】~【5.参加者への情報伝達】など様々な観点から、定期的にMTを行っています。
各段階で発生するリスクポイントに対して、2017年までに150件以上のイベント開催実績ノウハウに基づいて、適切な対応を施します。
コース設計・現地視察・関係各所との調整
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【時期】開催1年前~8ヶ月前頃
ルーツ・スポーツ・ジャパンでは、新しいイベントを立ち上げる際、0からコース・会場設計を行います。 安全なイベント開催をするためには、様々な視点でコースを確認し、注意すべき点は数多くあり、ツール・ド・ニッポン事務局のライドプロジェクトメンバーでコースの視察を何度も行い、安全なコース計画・安全対策をとります。
コース設計の段階で視察を複数回行い、コース上のあらゆる危険箇所を徹底的に分析します。 この段階で解決すべき課題が多く出てきますので、コース確定に関わる大きな課題をクリアし、開催本番まで にできる安全対策を考え、事故リスクを減らす努力を怠りません。 例えば、サイクリングイベントでは長くて暗いトンネル、長い下り坂の通過方法や、レースであれば鋭角なコーナー、 S字クランク等は事故リスクが高く、高度な安全対策が要求されます。安全対策の運用に不備があると大会当日大きな事故を招く事になります。
さらに安全面はもちろん、距離の長いサイクリングイベントではツール・ド・ニッポン事務局スタッフが自転車で実走を行い、疲労度やコースプロフィールに合わせたエイドステーションでの提供食(カロリー数値、温かい物・冷たい物等)を考えます。
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道路上の細かい確認事項
レース・サイクリングで多少視点は変わりますが、主な確認事項としては以下が挙げられます。
- コースの距離・幅員・コーナー数・勾配・信号数・右折箇所
- 道路上のグレーチング・マンホール・路面修繕必要箇所・段差・白線・キャットアイ・歩道の有無
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参加者を受け入れる会場の確認事項
多ければ数千人が集まる会場でもレース、サイクリングにおいて様々な確認事項があります。
- 参加者待機エリアの地面(芝生、アスファルト等)・ピットエリアと待機エリアの位置関係
- 参加人数に対する待機エリアの面積・スタート/ゴール動線の確保・会場周辺道路への影響(路上駐車対策含む)・トイレ数・更衣室/ロッカーの有無
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所轄警察との交渉・調整
レースにしてもサイクリングにしても、公道を利用して開催するためには当然警察の承諾、許可が必要になります。 弊社ではゼロから運営計画、安全対策資料を作成し、それをもとに警察との交渉を重ね、許可を取得します。
実施概要確定
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【時期】開催8か月~5か月前
開催場所(コース、会場等)の決定後、情報を発表してエントリーを開始するためにはコースに見合った「安全な規模」を設定する必要があります。 この規模が適切でないと、コース密度が上がりすぎ事故につながったり、大きな交通渋滞を引き起こします。 レース・サイクリングイベントにはそれぞれ「安全な規模」があり、その規模を守ることは非常に重要な事です。規模が大きくなりすぎて「参加したけど混雑していた」「とても危ない」といった声を聞くケースもあります。この判断をするには運営の実績・経験が欠かせません。
【コース密度に伴う参加組数の設定(エンデューロレースの場合)】
当たり前ですが3kmの直線道路を1人で走行している場合、落車リスクはほぼないといえますが、 3kmのテクニカルなコースを仮に実力が違う1000人が同時出走した場合、コース密度が高すぎて落車のリスクが高まります。弊社では距離・コーナー数・過去の経験値から導き出される一定の基準に基づいて、各大会の参加組数を算出し安全を確保しています。 下記はエンデューロレースで定員数を設定する際の指標です。
もちろんコース幅員・コーナー数・起伏・路面によってもコース密度の考え方は異なります。案件 コース距離 エンデューロ
走行時間参加組数 ライダー1名
毎の平均距離
(コース距離
÷組数)運営難度
(Aが最も
難度高い)1 3.0km 2時間 200組 15m C 2 4.0km 3時間 300組 13m C 3 5.0km 4時間 400組 12m B 4 1.4km 1時間 150組 9m A 5 3.2km 5時間 430組 7.5m A 6 5.1km 6時間 250組 20m D 7 4.2km 9時間 350組 12m B -
コース密度に伴う参加組数の設定(サイクリングイベントの場合)
道路封鎖を実施して行うことはないので、一般道路を自動車と共有して走行します。 仮にサイクリングイベントで参加者1000人を一斉スタートさせた場合、序盤の各交差点でのサイクリストの渋滞、 また幅員の狭い道路での車のすれ違いが困難な状況を作り出してしまい、 イベント開催によって通常おきるはずのない交通渋滞を招いてしまうリスクが発生します。
そういった状況を招かないために、一斉スタートではなく、数名から数十名単位のグループを形成し時差スタートさせることによって、周辺の住民や道路を利用する一般の方への影響をできる限り軽減できるよう努めています。
必ず各イベントで走行シミュレーションを作成し、いつ(時間)、どこで(場所)、何人の参加者が(密度)コース上を走行しているのか、想定した上で運営を行います。
運営体制構築
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【時期】開催8か月~2か月前
スタッフ体制
安全に自転車イベントを運営するために、予想する参加規模に合わせた適切なスタッフ体制を構築します。以下にレース・サイクリングそれぞれの体制例を記載します。受付やステージ進行など、ライド運営以外のセクションは除いたものです。
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1. 参加人数1,500人程度のサイクリングイベント
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2. 参加人数1,200人程度のエンデューロイベント
※次に、主なポジションについての機能と役割を記載していきます。
ライドディレクター
レース・サイクリングイベント共にライド運営の責任者(レース時は競技主管)です。コース設計から定員、規模の確定、スタッフ構成、安全対策全般の計画を総合的に管理します。
【レース時の役割】
レースの進行状況、落車が起きているポイント、先頭集団のペース、集団の数など、常にレースの状況を把握し、臨機応変にスタッフの配置変換を行います。 また、集団に入っている走行管理ライダーや走行管理オートバイとコミュニケーションをとり、集団のペースをコントロールする事もあります。【サイクリング時の役割】
100㎞以上にもなるコース全長にわたり、GPS・広域通信機器を活用して各所の状況をメイン会場に集約します。 メカニック、救護車、リタイヤ回収車両を、参加者の隊列に合わせて遠隔でコントロールし、トラブルが起きた際に、少しでも早く適切な処置ができるようにしています。ライドスタッフ
レースでライドディレクターのサポートとして活動します。スタート、ゴール等、要所での誘導、ピット内の管理を中心に行いつつ、アクシデントが発生したら、ライドディレクター指示の元、臨機応変に対応するスタッフです。
コース立哨員
レース・サイクリングイベント共にコース各所に配置されるスタッフです。規模によって人数は様々で、距離が長いサイクリングイベントだと、多くて100名以上動員されることもあります。また、レースとサイクリングではそれぞれ役割が異なり、安全管理において重要な役割でもあるので、ライド・ディレクターが前日もしくは開催1週間前頃に事前説明会を行い、業務内容の説明・レクチャーを入念に行います。 なお、全国各地で開催しているのでコース立哨員には開催地域のボランティア、行政職員の方々にご協力をいただいています。初めての方でも理解しやすい内容を心がけ、当日はライドスタッフがサポートしながら業務につける体制をとっています。
【レース時の役割】
コースのどこでトラブルや事故が起きても立哨員が察知できるように、人員を等間隔に配置しています。 コース内の監視はもちろん、公道封鎖時のレースでは脇道から自動車、通行者がコース内部に立ち入らないかも監視し、適切な迂回誘導を本部指示のもと行います。 常に本部と無線機で通信をとり、小さなトラブル・事象でも連絡を怠らず、迅速で適切な対処をとるようにしています。 主な業務としては、落車・落とし物があった際に後続ライダーへ危険を知らせる「黄フラッグ」をコース沿道で振っています。その他にも場所によっては危険個所での注意喚起等、臨機応変に対応をしています。【サイクリング時の役割】
交通規制を行わずに100㎞以上走るため、誘導が必要な分岐点、交通量の多い交差点等、参加ライダーが迷いそうな地点や、混雑が発生しそうな地点に人員を配置します。トラブルを発見したらもちろん本部へ報告をしますが、主な役割が「参加ライダー」が「安全」に「安心」してコースを完走するサポートを行います。 誘導だけでなく、時には激励、応援をすることで参加者の皆さんに心地よく走っていただけるよう努めていて、 ツール・ド・ニッポンではスポーツボランティアの皆さんの協力を得て、それらの運営を行っています。走行管理ライダー(サポートライダー)
こちらもレース・サイクリングイベント共に欠かせない重要なポジションであり、レース、サイクリングによって役割・スキルが大きく異なるポジションです。ツール・ド・ニッポンではイベントの種類、内容に応じて適したパートナーの協力を得ています。
【レース時の役割】
トップカテゴリーのプロ選手、実業団選手やツール・ド・ニッポンサポートライダーに協力していただいています。
プロ選手、実業団選手
エンデューロレースでは必ず大きな集団ができますが、ペースを調整することで集団の人数減らしたり、スプリントがかかるタイミングでは周囲のライダーに声をかけて安全にスプリントができるようコントロールをしていただきます。エンデューロは危険なシーンが少なく落ち着いている時間帯も長いですが、レース状況に応じていつでも安全なレースコントロールができるのは、トップカテゴリーで走っている選手です。
ツール・ド・ニッポンサポートライダー
集団コントロールではなく、主にビギナーライダーのケアをしています。例えば、キープレフト(もしくはライト)を守っていないライダーに声をかけたり、コーナー付近では周囲のライダーに減速の声をかけたり、集団が後方から迫っていたら、周囲の人たちに端へ避けるように声をかけたりします。その他にもコース途中で止まってしまっているライダーに声をかけて、サポートをしたりと細やかな対応をしています。
走行管理ライダーからのフィードバックは常に本部で把握し、レース中であっても安全物資の追加設置や監視員のポイント変更など、随時対策を施します。【サイクリング時の役割】
レースのように集団管理はないのですが、サイクリングイベント1日を通して参加者と時間を共にし、最もコース上の状況を把握しているのは、一緒に走っている走行管理ライダーです。そのため、定点で誘導をしている立哨員よりも参加者のトラブルに遭遇することが多く、本部へ来るトラブル報告の8〜9割が走行管理ライダーからによるものです。 パンクによるチューブ交換等、簡易的なトラブルであれば走行管理ライダーが解決する事も多くあります。 規模の大きいイベントでは走行管理ライダーの動員数は100名にもなり、この方々の活動がなければサイクリングイベントは成り立ちません。走行管理オートバイ
走行管理ライダー同様に、レース・サイクリングイベントによって必要な役割・スキルが大きく異なるポジションです。ツール・ド・ニッポンではイベントの種類、内容に応じて適したパートナーの協力を得ています。
【レース時の役割】
コース幅の問題でオートバイが入らないレースもありますが、サーキット等コース幅が十分にあるレースでは導入しています。大きな集団の前方につき、追い越されるライダーに対して、後方から集団が来ている事をエンジン音、クラクション、拡声器等を用いてアナウンスをします。追い越されるライダーは事前に集団の存在を把握できるので余裕をもって避けられます。【サイクリング時の役割】
主に隊列の先頭、最後尾について走行をします。オートバイがGPSを所持することで本部では隊列の位置情報を把握することができます。立哨員配置解除の判断、エイドステーションの準備/撤収、走行管理ライダーへのペース指示等、この隊列位置情報を元にライド運営の予測を立てる事ができます。 コースを間違えてしまったライダーが発生した場合、正規のルートに戻す対応をする場合もあります。最もコース上で機動力があり、臨機応変に動けるのは走行管理オートバイです。注意喚起スタッフ(レース時)
コース上の危険箇所(ヘアピン・急コーナー)には、レースの動向を常時監視しながら参加者に注意喚起する「注意喚起スタッフ」が定点配置されています。これは前頁の「コース立哨員」とは別の部隊です。 ボディーランゲージ・ハンドサインを使った注意喚起はもちろん、ラインキープの徹底など、状況に応じた声がけを行っています。 「注意喚起スタッフ」がコース上にいる、いないでは明確に落車発生率に差が出ます。 特に公道封鎖型のレースでは、どうしても路面状況の良くない場所や直角コーナーが多いので、「注意喚起スタッフ」の役割は高まります。 また、事故・トラブル発生時には、コース立哨員・救護スタッフと共にファーストエイドのサポート役もこなします。
*体制例
・1周3.2kmの広い公園内を走る周回レースの場合:コース上に3名の注意喚起スタッフを配置*導入実績
・1周3.2km、参加人数役1,800名のエンデューロ
導入前:計約20件の落車発生
導入後:計約10件の落車発生
*注意喚起スタッフ以外の施策も含め複合的な対策を施しているため一概には言えませんが、確実な効果があることは間違いありません。 -
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救護体制全般
レース・サイクリングイベントに関らず、救護対応が発生した場合に備えた万全の体制を構築しています。レースではコース上のすべての地点を必ず誰かが目視できる間隔で立哨員を配置し、落車などのトラブルや二次被害へとつながるコース上の落下物等の迅速な発見が可能となります。また立哨員の配置箇所については、スポーツ救護専門のパートナー企業とも連携し決定しています。レースの場合は、事故・トラブル発生から3分以内に、救命士の資格保持者またはそれに準ずるスタッフが事故現場へ到着できる体制を構築しています。サイクリングの場合はカバーエリアが広範囲にわたるため、救護車両とは別に、救命資格保持者によるオートバイチームも導入しています。交通渋滞等の影響をあまり受けることなく負傷者に接触できるため、コース上で負傷している参加者の不安を取り除くとともに、すばやい処置が可能になります。
*救護体制例
・1周4.8kmの周回レースの場合
救護全体コーディネーター1名、医師1名、看護師1名、コース上の救護スタッフ4名、待機エリアの救護スタッフ1名、消防士3名
・救護車両2台、救急車1台
*救護専門会社
数多くのスポーツイベント救護実績のある、株式会社ピースフルと連携しています。
http://www.peaceful-hp.com/guard05.html -
コース設営計画
安全に自転車イベントを運営するために適切なコース設営計画を立案します。主に次の要素で落車リスクがある箇所に対応をします。
グレーチング・マンホールへの対応
一般道にある「グレーチング」は、ロードバイクの細いタイヤがはまるサイズの場合があり、30kmを超えるスピードでタイヤがはまった場合には大事故につながります。また「マンホール」や「グレーチング」は滑りやすいため、特にコーナーにある場合は処置が必要です。弊社ではグレーチングの幅、深さとマンホールのサイズに応じて最適なマットの選択を行うとともに、レース中にマットのずれが起こらないよう、特殊なテープを使用して路面への固定を行っています。
路面が荒れている箇所
当然ですが、公道はサイクルロードレースをするために整備されているわけではありません。自動車が通行するには問題ありませんが、ロードレースを開催するには危険な段差・穴・亀裂が存在します。時速40㎞近くで走行していれば多少の段差でも衝撃を感じ、ハンドル操作を誤って、最悪周囲を巻き込んだ集団落車を引き起こす事もあります。そうならないよう、コース設計段階(1年~8か月前)から危険個所を把握し、必要であれば道路管理者に掛け合い、本番当日までに補修をお願いする事もあります。難しい場合は、大会前日に一時的に穴・亀裂を埋めたり、養生マットを敷く等の対処をします。
減速が必要な鋭角なコーナー
サーキットではそこまで減速が必要なコーナーはないので、ペダリングをしながら曲がれるコーナーが多いと思いますが、公園内の特設コースや公道コースではそうはいきません。直角コーナー、幅員が狭くなるコーナー、逆バンク等、注意しなければならないポイントは数多くあり、そういった場所が落車注意ポイントになっています。ライダー自身に気をつけてもらう事は第一なのですが、大会側でも大事に至らないよう対策をします。
まず第1に、事故を起こさないためにスタッフ体制で紹介した注意喚起スタッフを配置します。そして万が一、転倒・追突をしても大きな怪我にならないよう衝撃を和らげる緩衝材やフェンスを設置します。 ただ設置するだけでなく、オーバーランした場合の追突予測場所を考えたり、追突したライダーが緩衝材に跳ね返ってコース内に戻ってきてしまうリスクも考えて素材を選びます。
前日から当日の動き
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【時期】前日~当日
イベント前日
参加者の皆さまが安全に・気持ちよく走行するための下準備をすることが、ライドディレクターの一番の任務です。 現場では事前の計画に基づいて、危険箇所に対して安全対策を施していきます。 コーン・バーの配布、コース上誘導看板の設置、危険箇所への安全対策を前日のうちに実施します。 また特にこだわっているのが、コーン等の配置ライン、コース上看板の設置位置です。 ライドディレクターはコース設営によって転倒リスクを減らすため、前日のうちに設置すべきポイントにチョーク等で路面に線を引き、当日の設営イメージを作ります。
前日に路面にチョーク等でマーキングする理由は、当日の道路封鎖前の設営作業をライドディレクター本人ができないケースがあるからです。警察当局からは道路封鎖時間を少しでも短くすることが求められます。そのため専門的な知見を持ったディレクター自らがコース設営物を一箇所ずつ回る時間を確保することが難しく、立哨員や設営会社のスタッフが設置業務を行うことになります。 道路封鎖時の設営は極めて重要な作業であり、例を挙げるならばカラーコーンが1つ分(約30cm)横にずれただけでライダーの走行ラインが変わり、事故発生率が変化します。
前日に実際にロードバイクに乗車し走行ラインを何度も確認した上で、カラーコーン等の設置箇所や看板の設置箇所をマーキングしています。 道路封鎖時にはマーキングに沿って立哨員の皆さんや設営会社のスタッフが設営物を設置し、その後で再度ライドディレクター自らがコースを走行・視認で最終確認を行います。 -
イベント当日
これまで述べてきたように、自転車イベントの安全確保のためには事前の準備が極めて重要であり、仮にその重要度を数字で示すならば「事前8割、当日2割」といったところです。事前の準備が悪ければ、当日どんなに頑張っても安全なイベント運営はできません。
しかしながら、ここまで準備をしてきた上でさらに「予期せぬアクシデント」が起こりうるのも自転車イベントです。当日ライドディレクターは、立哨・救護・走行管理・計測・注意喚起・設営など、全てのライド運営のパートを束ねる役を担います。レースやサイクリングの安全管理、傷病者の発見と対応はもちろん、悪天候によるイベントスケジュールの変更や中止、はたまた突然の高速道路の事故渋滞による参加者の遅延に至るまで、様々なトラブルに対して、適切な判断を下していきます。年間で30件以上の現場をこなしていますが、同じ現場は1度たりともなく、その土地柄や当日の気象条件等によってさまざまな対応を迫られますが、 事前のプロセス設定を基本にしつつも、常に現場対応で最善策を導き出せるノウハウをもっていることこそが弊社の最大の強みでもあります。
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イベント当日~コース上でのトラブル救護案件発生時~
事前に入念な落車リスク軽減の対応を行っても、実際に落車が発生してしまうことはあります。 そういった場合を想定し、現場では以下のフロー図に沿って救護対応やレース運営の対応・判断を行っています。
①落車が発生した場合、仮に軽症で再スタートを切っても、立哨員は救護本部への連絡フォーマットに沿って必ず本部に報告を行います。 どのようなケースでも本部に状況報告を行うことによって、レースの落車傾向を導き出すことが可能になります。また、落車発生箇所の立哨員および発生箇所手前に位置する立哨員が2次事故を防ぐために黄旗を振り、参加者に注意喚起を促します。
②救護本部に連絡を受けてから、落車発生箇所の最も近くにいる救命士が現場に急行します。現場到着後は上図のフローに沿って判断を行い、負傷者の対応を判断していきます。ケースによってはその場から直接119番への連絡や大会側で用意している救護車の出動を行います。コース上への車両の進入は事前にルートを決めているので、コース上のどこで傷病者が発生したとしても原則事前に決めたルートで負傷ポイントまで車両を誘導します。関係のある立哨員は本部の指示で黄旗を振る場合もあります。
こういった対応フローは、ライドディレクターだけではなく、コース上に立つ立哨員や救護スタッフとの連携によって支えられています。当日スムーズな対応をとるためにも、各所との事前の打ち合わせが非常に重要になってくるのです。
参加者への情報伝達
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ここまで、参加者の方々に楽しんでいただくために、安全なイベント運営がいかに大切でそのためにどのような準備をしているかお伝えしましたが、もう2点、参加者の方々に楽しんでいただく上で大切なことがあります。それは
- 参加者の方々には自身に合ったレベル、趣旨のイベント(レース、サイクリング等)に参加していただく
- それに向けて正しい身体、機材の準備をしていただく
です。
例えば、アップダウンの激しいコースで150㎞以上走るロングライドであれば、クロスバイクではなくロードバイクの方が適していますし、ビギナーの方はあまりお勧めできません。また、エンデューロレースが初めてでレース経験が無いという方であれば、ルール・マナーを知らないまま参加することは危険です。クリテリウムとエンデューロで気を付けるべきポイントも変わってきますし、レース初心者であれば、ソロで長時間のカテゴリーへの参加はハードルが高いのでチーム参加を推奨したりもします。全く情報・知識が無いまま参加すると事故にもつながるので、本人にとっても大会としても良くありません。 極端な話、エンデューロ初心者を一斉に500名走らせたらおそらく大変な事になります。そうなってしまうのは主催者・運営側の責任でもあります。
主催者・運営側は、告知・募集段階で参加を検討されている方々に対して「イベントのレベル感」「参加に向けて必要な準備」をしっかりと見ている方に伝える必要があります。大会側と参加側のコミュニケーションは開催発表・告知時点から発生し、当日まで適切なアナウンス・啓発をする事も、参加者の方々に楽しんでいただくためには非常に重要な事なのです。
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WEBサイト等でのアナウンス・啓発・事務局対応
多くの場合、一般の方がイベント情報に最初にたどり着くのが公式WEBサイトです。口コミ・チラシ・SNSをきっかけに大会を知るかもしれませんが、詳細を知るためにほとんどの方が公式WEBサイトを訪れます。
この公式WEBサイトで記載しているのは主に以下の通りです。・イベントの種類
エンデューロ、ロングライド、サイクリング、ヒルクライム、キッズレース、自転車教室、来場型試乗会
※ライドハンターズというゲーム感覚のイベントもあります。・イベントの特徴
レースだったらどういうコースなのか(公道、サーキット、レース内容)
ロングライドの距離、勾配、ロケーション
開催地域の観光資源、特色
どういう方々に参加してほしいのか(がっつりソロで走りたい!チームでわいわい楽しみたい!ファミリー歓迎!)・募集内容、カテゴリー(走行距離、走行時間など)
ビギナー向けのクラスがあるのか?レースだと講習会もセットにした「レースデビュークラス」を設けたり、短い時間設定で車種規定も特に設けず、入賞を意識しない部門を設定する事もあります。
ロングライドでは100㎞以上のコースをメインに、女性・キッズ・クロスバイクでも参加しやすい短い距離の「エンジョイコース」を設ける事もありますし、逆に厳しい上級者向けのコースであれば獲得標高・距離をしっかりと明記し、中~上級者向けである事をアナウンスします。・ルール、レギュレーション
自転車の車種・装備規定(このタイプの自転車は参加できる自転車の車種・装備規定を設けます。タイムトライアルレースであれば許可する車両もエンデューロ、サイクリングでは禁止にしています。・初めての方へ
レース・サイクリングイベントにおいて参加するために必要な準備(装備、機材等)をご案内しています。 色々と揃えるには期間が必要です。自分だったらどういった物を買ったら良いか調べたり、聞いたりしてしっかりと準備をしてイベントに臨んでいただきたいです。その他にも公式WEBサイトにはアクセス・ゲスト情報・地域情報・観光情報・ブース情報などがありますが、上記の内容は「どれに申し込めば良いか」の判断材料になる情報であり、後々になって「想像してたのと違った」を防ぐための情報です。ミスマッチは大会側・参加側共に良くない事です。
それでも公式WEBサイトだけでは解らない事はあると思います。その際は事務局へ電話・メールでお問合せをいただければ、カスタマーチームが対応させていただきます。とにかくエントリーをする前に「自分に合ったイベント・カテゴリー」を確認してからエントリーをしていただきたいと考えています。 -
参加案内書・駐車場MAP作成(大会1ヶ月前~2週間前)
ライドディレクターは、イベントの2週間前を目安に「参加案内書」を作成します。
イベント直前で参加者に展開するこの書類には、参加者が必要とする「競技ルール・スケジュール・会場レイアウト・駐車場情報・イベント情報」すべてが正しく掲載されている必要があります。もちろん、開催発表時から出している情報(ルール、レギュレーション)もありますが、改めて全員に周知する必要があるので漏れなく明記しています。内容だけではなく、参加案内書をいかに「参加者全員に見ていただけるか」も大切です。全員個人参加であれば大抵の方々はしっかりと内容を読んでいただけますが、チーム参加となると読んでいただけるのは代表者の方のみという事があります。そのため、メールでの通知時にチームメンバーへも周知していただく事の重要性を謳い、代表者以外でも閲覧できるように公式WEBサイトはもちろん、SNSも活用して情報を届けるように努めています。
参加案内書は、誰にでもわかりやすいよう「初心者でも参加するために必要ことがすべて理解できる」ものにすることを目指しています。そこには半年以上かけて準備をしてきた内容が凝縮されています。そのための準備は、実はイベントの企画段階からすでに始まっているのです。
また、稀に予期せずアクシデントにより、レギュレーション変更・スケジュール変更・コース変更が発生する事があります。例えば災害により一部会場が使えない、コースを迂回しなくてはならない、悪天候が予想されるため会場ではテント持ち込みを推奨、寒波のため防寒着が必要、等々。
遠方で行われるイベントが多いため、参加者される方々は「その土地に行くのが初めて」という事も多くあります。日中の気候は?朝は寒いの?会場に雨をしのげる場所はある?駐車場からの距離は?等、実際に行ってみないと解らない事がたくさんありますので、少しでもその疑問を解消するために「参加案内書」「公式WEBサイト」「メール」「SNS」等での情報発信が重要だと考えています。
慣れている方は良いかもしれませんが、イベントにあまり参加した事が無い方にとって情報が少ないイベントは不安になるため、参加自体を敬遠することもあります。 ツール・ド・ニッポンでは「初めてだけど自転車イベントに出てみたい!」という方々にも参加しやすく、楽しんでいただけるイベント創りを心掛けています。 -
ライダーズミーティング(注意事項説明)
レース・サイクリング共にスタート前に「ライダーズミーティング」と呼ばれる注意事項説明をライドディレクターより行います。 参加者の皆さんががスタート整列をした状態になり、いよいよスタート15分前で、5~10分程度の注意事項説明を行います。これをやるかやらないか、または話す内容・話し方・後ろのほうまでちゃんと聞いていただいているかどうかによって、事故の発生率が大きく変わってきます。それくらい重要なタイミングです。
イベント当日まで公式WEBサイト・参加案内書・メール・SNSで大切な事をたくさんアナウンスしてきました。当日を迎えるための準備、来場時の注意事項、走行中の注意事項などありましたが、ここまでくれば残りは「走行中の注意事項」のみです。そこで改めて、ライダーズミーティングを行い「必ず守ってほしい事(=危険につながる事)」を簡潔にお話しします。ここで長々と話してもスタート前の気持ちが高まっている状態なのであまり聞いてもらえません。
レース・サイクリングで当然守ってほしいポイントは変わってきますので、それぞれ大切なポイントを伝えます。 いずれにしろ、いかに聞いてもらえる状態を作り出し、参加者の皆さんに意識し行動してもらえるかが大事になります。レース(エンデューロ)
【内容】
・危険、事故につながってしまう必ず守ってほしい事
→ヘルメット、グローブ装備、キープレフト(またはライト)の徹底、コース上の危険個所、走行中参加者同士の声掛け
様々なレベルの参加者がいる事の認識、天候による補足事項(猛暑、強風、雨天)
・勝敗を左右する大切なルール
→ピットイン回数規定、ピット封鎖、ゴール方法【ポイント】
・スタート整列しておらず、ピットにいる方にも聞いてもらえる雰囲気をつくること
・様々なレベルの方がいるので参加者同士で気配りをして安全にレースを終える事の意識付。サイクリング
【内容】
・危険、事故につながってしまう必ず守ってほしい事
→ヘルメット、グローブ装備、コースの特徴や注意点、天候による補足事項(猛暑、強風、雨天)
・公道を大人数で走る事の注意事項
→左側一列走行、信号や一時停止の順守、自動車や歩行者への気遣い、ハンドサイン、声出しなどで他参加者、自動車などへの意思表示
計測業務
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自転車イベントのうち、レース(エンデューロ・ヒルクライム等)ではタイム計測(記録計測)が欠かせません。
イベント当日皆さんの頑張りを正しく迅速に記録するために、事務局では事前のデータ作成から当日の計測管理、競技結果の作成まで一連の業務を担っています。
ツール・ド・ニッポンではタイム計測業務を内製化しており、ライド運営を司る「ライドプロジェクト」、参加者のエントリー・受付を司る「カスタマープロジェクト」の両部門と緊密な連携をして業務にあたっています。【計測業務の流れ】- ①エントリーデータから計測データシステムへの変換
- ②計測チップの準備
- ③事前の入念な計測テスト
- ④現場の計測機材チェック
- ⑤レース中の計測業務管理
- ⑥競技結果の作成
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①エントリーデータから計測データシステムへの変換
計測データへの変換・エントリーサイトで集約した参加者情報を計測データとしてデータを加工します。
・レースカテゴリー別にレースの情報と参加者の情報をリンクさせます。
*誰がどのカテゴリーに出場するかをデータ上で登録・管理します。
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②計測タグの準備
・作成した計測データ(参加者情報)と計測タグの情報をリンクさせます。
*誰がどの計測タグを使用して走行するかをデータ上で登録します。
計測タグとは・・・計測タグが計測地点を通過した際に、「通過時間」「通過回数」が計測されます。・データ登録された計測タグは、当日参加者皆さんが受付する際にお渡しできるように、ゼッケンとセットにして封入をしておきます。
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③事前の入念な計測テスト
・レース情報と参加者情報が集約された計測データを使用し、テストレースをデータ上で行います。
*システム上でランダムに通過記録が作成され、実際に周回数・ゴールタイム・順位を算出します。
・印字、計測データに問題がないか、事前に入念にチェックを行います。
計測業務は「事前の準備が9割、当日準備は1割」といわれるほど、事前のテストがとても重要です!事前に完璧な準備を行っておくことが計測業務の理想形なのです。
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④現場の計測機材チェック
・コース上、スタート地点、ゴール地点に計測マットを作成し、計測するポイントの準備を行います。
・計測ポイントでは、受信機材、データ管理をするパソコン、記録ビデオなどレースタイムを管理するシステム機材のセッティングを行います。
・測定ポイントに設置される「計測マット」は計測タグが通過した際にしっかり通過記録が受信できるように受信強度などのチェックを行います。
正常に記録を受信するためには規定に従って計測タグを装着し、計測マット上を通過する必要があります。
競技規則に則った計測タグの利用をしない場合、正常に記録が取れない場合があります。受信漏れは機材の不具合によって起こる可能性は99.9%ありません。レース当日はしっかり計測タグの利用方法を確認して、レースに臨むようにしましょう。
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⑤レース中の計測業務管理
・計測専門スタッフが計測ポイントで問題なく通過記録を保存できているか管理し、参加者皆さんのタイム・順位のチェックを行います。
・レース中に計測トラブルが起きた際に即座に対応し、正常に記録がとれるよう軌道修正を行います。
■レース中のトラブル
・計測タグの紛失
・受信漏れによるタイム修正
・エントリーデータの変更
・雨天時の機材カバー
Etc… -
⑥競技結果の作成
・レース途中の経過記録、終了後のゴールタイム、順位をデータ管理し、参加者の皆さんが確認できるよう「リザルト」「表彰状」など体裁を整えて出力します。
・スマホなどネット上でも記録速報が確認できるシステムを使用するなど、よりリアルタイムで自身の記録をチェックすることも可能にしています。
・表彰状、完走証などレースの記念になる印刷物の作成を当日中に行います。
・大会後に各ラップタイムを掲載した、「ラップチャート」の作成も行っています。